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一緒に子育て 84 ある非行少年の立ち直り 母親との関係で

子育てをしている親の立場で、子どもが非行に走らないかの心配を、多くの親が持っているのではないでしょうか。また、もし非行に走った場合、どのように我が子をサポートするかも気になることだと思います。少年の場合、警察や鑑別所を経由して家庭裁判所の審判に付されます。そこで、少年院送致、保護観察処分と審判の結果が出ます。

私は保護司をしており、犯罪や非行に陥った人々と関わりを持っています。今から紹介するケースは、私の保護観察の対象ではなく、知人として相談を受けた18歳の男性A君です。

A君は家出同様に親元を遠く離れ生活をしていました。アルバイトを転々としながら生活をしていましたが、収入が不安定でした。ある時バイクが欲しなりましたが、お金が足りません。衝動的にアルバイト先から商品を盗み警察に逮捕されました。少年院送致の審判を受け、約1年少年院で過ごし母親の元に帰ってきました。

A君の家庭は両親が離婚をしており、母親が一人で生活をしていました。母親もフルタイムの仕事でなく収入も平均以下でした。A君は、生活意欲、就労意欲も乏しく、ほぼ引きこもりの状態でした。それに加え、母親の蓄えたお金を盗みだし、自分の小遣いにしていました。このような状態を見た親戚の者が度々本人を説教しますが、全く効果はありませんでした。

しかし、母親は周りの親類や兄弟の心配ほど焦ってはいませんでした。私も何回か母親に会いましたが、長く離れていた自分の息子との2人だけの生活を、楽しんでいる様子がうかがえました。通常でしたら、親として焦りと心配で、気持ちも不安定なるところですが、そのような素振りは見られませんでした。A君の過去の非行を心配したり、今後の彼の立ち直りの為に意図的に彼に働きかけることもなかったです。

そんな母親の元で,A君も気持ちが安定してきたのか、穏やかな表情を示すようになり、お金も持ち出しもいつのまにか無くなりました。少年院から帰宅して約1年後、近所の建築関係の仕事している人から、自分の所で働いてみないかとの申し出がありました。大変好意的な申し出で、無理のない程度の時間でいいとのことでした。働くための生活リズムも崩れていましたので、最初は少しの時間でしたが、徐々に働く楽しさ、賃金を得る満足が増加し稼働時間が増えてきました。今は、全く心配も無く、仕事に精を出しています。

このケースでの特徴は、母親が常に安定して穏やかな気持ちでA君を支えてきたことです。もし反対に母親が焦り、積極的意図的にA君の生活改善や、就労へとつながる試みをしていたら、A君のすさんだ気持ちを余計に増幅し、気持ちの不安定につながったことだろうと想像できます。母親の気持ちの根底には、彼への信頼があったことでしょう。再度事件を犯さないか、家のお金を持ち出さないかの心配より信頼の気持ちの方が勝ったのです。

人は信頼されるとそれに応えようとするのです。

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臨床心理士・元スクールカウンセラー  鈴 木 隆 一


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