このシリーズ16「子育て常識の嘘 その2」で「友だちがおらんのは、アカンことなんか」でも取り上げました内容です。「群れる弱さ」、「一人でいる強さ」の言葉でも対比させました。ある所で、ある事柄に関わり、一層このことを痛感しましたので、再度、取り上げたいと思います。
「一人、平気派」の言葉を使用しましたのは、中学生の保護者対象の講演会で,同趣旨の話をした時、感想文の中に「うちの子どもは、一人、平気派」と表現されていました。「一人でいる強さ」より「一人平気派」の方が穏やかな感じですので,今回みだしの言葉で使わせて貰いました。
さて、ある事柄というのは、小学校高学年女子児童のケースでした。小学校高学年といいますと、思春期前期の発達段階です。自分の性格、容貌等が大変気になります。また、周りの友人からどう思われているか、どう見られているか、自分の言動がどのように受け取られているかも,大変気になる年齢です。そのようなことを含めて友人関係にものすごく気を遣っています。もっといえば神経をすり減らしています。
その女子児童は、もともと友だちづくりが苦手で、集団生活を始まった頃から、どちらかといえば一人遊びが好きでした。しかし、学年が進行するにつれて,自分のことや周りのことが気になり始めました。時を同じくして親や,先生から友だちづくりを勧められました。常識的なこととして、友だちはたくさんいた方がよい、友だち関係の中でいろいろなことを学べる、友だちがいないと社会性が育たない等々のアドバイスを受けました。それほどきつく言われたわけではありませんが、「友だちが少ない、一人でいる方が多い」自分の日常にマイナスイメージを持ち始めました。いわゆる自己否定感の始まりです。
彼女は,自分でもそこから抜け出そうと、友だちづくりでいろいろ試みました。自然発生的な友人関係ではなく,とても意図的ですのでそこにはいつもぎこちなさ、不自然さだけが残りかえってうまくいきません。保護者の勧めもあり地域の運動クラブにも入りました。世間では運動を通じて友人が出来る、助け合いの精神が育成される、といわれます。この常識にもなかなか反論できません。
もともと運動嫌いの彼女は、そこでもいわゆる皆の足手まとい的な立場になり、自己否定の感情を募らせました。このようにいろいろな努力、大人からのいろいろなアドバイスの実行も、ことごとくうまくいきませんでした。このことだけが原因ではありませんが、不登校傾向から本格的な不登校になりました。
さて、ここで問題にしたいのは、彼女の「一人の方が過ごしやすい」「一人で本を読むのが好き」「一人でこつこつ手芸する方が好き」等々の持って生まれた性格や持ち味を、なんでアカンものとして、周りがこぞって評価するのであろうか。積極的に否定はしていないが、長きにわたってマイナスのメッセージを受け続けると、じわじわボディブローとして効いてくる。
子育ての専門書や専門家も、ごく常識的にその論を勧める。多様化を標榜する学校教育でもそうである。あまりにも常識的すぎるので周りは反論できない。私のいう「子育て常識の嘘」である。
「本を読むのは、内面を豊かにするもんやで」、「こつこつ一人で物事に取り組めるのは、根気強さにつながるで」「群れて過ごすと、自分を見失うことになりがちやで」、となんでプラスの評価を伝えてやれなかったのか。そうすれば、少なくとも自己否定の気持ちを、持ち続けることはなかったと考える。
常識は、確かに常識で当たることが多いが、強すぎる常識の裏には、時には当てはまらないこともあることを考えたい。
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臨床心理士・元スクールカウンセラー 鈴 木 隆 一