先日、愛着障害に関係する講演会に参加しました。その中でいろいろ共感することがありましたので、私の経験も交え少し述べたいと思います。
先ず、講演会の講師ですが、福井大学こころの発達研究センターの友田明美教授でした。著書もあり最近ではメディアでも取り上げられています。友田教授によれば虐待や親・養育者から不適切な養育を受けることにより、反応性愛着障害の症状を起こす。結果的に、健全な人間関係が結べない、達成感への喜びが低い、やる気や意欲も起こさない等々の問題を抱えます。「褒めても響かない」の言葉で表せます。まるで、自閉性をベースにした発達障がいの人たちが持っている特徴と類似します。
私が保護司として関わった19歳の男性を例にとります。彼は、保護観察中守らなければならない遵守事項、「仕事を続ける」をきちっと守り、決められた保護観察の期限を待たず良好解除になりました。本人が特定できないように紹介したいと思います。
四国である事件を起こし少年院送致の審判を受けました。少年院を出てから私との関係が始まりました。通常、少年院を出るとき、身元引受人は親を指定することが多いです。しかし彼は親を指定せず、職親を指定しました。彼に関する書類には、親からの虐待がひどく本人から親を拒否したとのことです。これは相当の虐待を受けたことが想像できます。
私宅で初めての面談の時です。どの対象者にもするようにお茶を出しました。「猫舌で熱いものが飲めないのに、なんでこんなお茶を出すのか」、と怒りの発言がありました。その後も定期的に面談を続けましたが、最後まで親和的な雰囲気を作れず、人を拒否する状況が続きました。
通常、義務的で面白くない面談であっても、回を重ねるに従いお互いの人間性も理解して、また常識的な感性で、挨拶やお愛想をするものですが、彼にはそのような人間関係の潤滑油が全く見られませんでした。人間不信が大きかったのでしょうか。
この状況は、まさしく虐待が彼の心を奪ったものです。親や養育者に完全に依存でき、完全に守られる状況になく、反対に依存や守りの反対の環境におかれていたのです。
この状況は、友田教授に寄れば、脳もさえ傷つけるそうです。
依存できる、完全に守ってくれる人の存在を彼が感じることで、長い時間の経過があれば修復できますが、本当に心配な事例でした。期限前に良好解除をする手続きを終え、通知書を渡し、「よく仕事を継続できたね」、とプラスのメッセージを送っても、まさに「褒めても響かぬ」の様子でした。
幸い、仕事を続けている、雇い主からは信頼されている、という実生活の中で自己肯定感が生まれる状況があることが大きな救いで、今後人を信頼できる感性が育ってくれることを願うばかりです。
子育ての中で、少々失敗や抜けたことがあっても、愛着関係を促進する抱っこ、おんぶ、なでる等々のいわゆるスキンシップと、笑顔、声かけさえあれば、たいした失敗にはなりません。
臨床心理士・元スクールカウンセラー 鈴 木 隆 一
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