昨年に引き続きギャラリー店頭に、七夕飾り用の笹を自由に持って帰っていただけるように用意しています。何人かの子育て現役の若いお母さんが声をかけてくれ、持って帰ってくれました。おそらく、今日か明日、子どもと一緒に飾り付けをするのでしょう。その様子を想像すると、微笑ましくなります。
タイトルの「何気ない思い出」ですが、特別に時間やお金をかけたりするのではなく、日常的に親子が一緒に同じことをするという意味です。
中学校のスクールカウンセラー時代に、次のような臨床例がありました。 2年生不登校傾向女子生徒でした。登校しても教室へは入れず、別室登校をくり返していました。配慮を要することとして、本人の母親は別居していました。本人の意思で時々面接をしていましたが、あるときその母親について次のように述懐しました。
誕生日等に母親がプレゼントを持って訪ねてきてくれたり、普段あまり行かないレストランに連れて行ってくれるが、「そんなもんは、そのときだけの楽しみで、いっこも後に残らへん」、と不満げに語りました。意味深長な発言と受け止めました。この子は高価なプレゼントやご馳走より他のものを望んでいるのです。それが、日常の「何気ない思い出」です。母親は、喜んでもらうべくお金と時間をかけましたが、本人には瞬間的な思い出にしか残らなかったということです。
この話をアレンジして、ある子育て研修会で話しましたところ、フロアの若いお母さんから発言がありました。「自分の母親は覚えていないだろうが、幼稚園の頃母親と一緒にした粘土遊びが、何ともいえないぬくもりとして思い出される」でした。講師として嬉しい発言でした。
笹を持ち帰ったお母さんが、一緒に手作りの七夕飾りをすることで、きっと温かい思い出として子どもに残ることでしょう。
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臨床心理士・元スクールカウンセラー 鈴 木 隆 一